OpenAIの「Democratic inputs to AI」に応募した話
OpenAI「民主的プロセスを改善する実験を支援します」
総額$1,000,000……いちおくえん?!
何これ?民主的プロセス??OpenAIはなぜこれに1億円も出すの??? 「Democratic Input to AI」の目的
AIは経済的社会的に広範囲な影響をもたらす
「AIがどうあるべきか」の意思決定が、営利企業の経営陣のような「少数の人間」によって行われるのは正しくない この方向性の第一歩を踏み出すために実験プロジェクトを支援する
意思決定に関連する問題を探求し、将来的にはより直接的に意思決定に情報を提供できるような、新たな民主的ツールを構築することを期待している。 すっごく面白そうじゃん?!/nishio/nishio.icon
応募した!!
7/15に結果がわかる
普通こういうのは採否未定の段階では話さないんだけど、プロジェクトの計画を立てるうちにプロジェクトメンバー自身がワクワクし始めて「面白いから採否関係なくやっちゃおう」ということになった
もう活動開始して、プロジェクトへの参加を受付開始している
採択されたらやらなければならないこと
要件
500人以上が参加する実験を行う
実験から得られた知見に関して10/20にレポートを公開する
「500人以上が参加」この要件が難しそう…?
ここでCode for Japanの話
Code for Japanは2014年に設立された一般社団法人
2020年から参加型民主主義プラットフォームDecidimを日本国内に展開 今回Code for Japanのプロジェクトとして応募した
「500人?問題ないでしょう!」
OpenAIとの契約などはCode for Japanが法人格としてやってくれる
(こういうときに活動実績のある法人格が動くと諸々とてもやりやすいのでありがたい/nishio/nishio.icon)
という経緯で実現可能性が格段にアップ!
プロジェクトの構造
詳しい説明に入るまでに少し「ピザ」のたとえ話
「ピザの土台」があれば、その上に色々な「トッピング」ができる
プロジェクトの最低限の遂行はピザの土台部分が担保するので、トッピングでは個性的な実験ができる
トッピングは好き勝手に試行錯誤して、うまくいったものだけ最終的にリリースすれば良い
ここにいる人はみんな個性的なトッピングを作れる人たちだと思う
「民主的プロセス」とは、
(A)広く代表的な人々が意見を交換し、熟議を行い、 (C)最終的に結果を決定するプロセスを意味します。
ろくに議論をしないで投票をするのは民主的プロセスではない
それをどうやって作るか?そこでSFプロトタイピングだ
ソフトウェア開発では、プロトタイプを作ると改善すべき点がより具体的に見えてくる しかしソフトウェアでプロトタイピングするのは、ソフトウェアエンジニアしか参加できない
だから日本語で未来のストーリーを作るプロトタイピングが必要、これがSFプロトタイピング
いくつものストーリーによって未来の幅が見えるようになる これが「どうすればより良い未来にできるか」を議論する土台になる
https://gyazo.com/d08523ec36905df9adc7a87f092bffe4
Polis的システム
PolisのことはOpenAI自身もグラント解説文の中で名指ししているし、実例としてPolisにインスパイアされたシステムを紹介している、この分野を語る上で重要な要素技術 先日AnthropicとPolisのジョイントチームからプレプリントが出てたので読むといいかも Polisは複数人が複数の質問にYes/Noで答えることで「投票行列」ができ、これの可視化とクラスタリングをするシステム
https://scrapbox.io/files/64a1c2e1128d84001bd26066.png
複数人が複数の質問に答えることで「人々の主観の分布」を得る
我々のチームは今はPolisを単なるユーザとして使っているけど、それだと技術的に新しいことにチャレンジしにくいので、新しいシステムを作りつつある: コモレビカガミ SFプロトタイピングとPolis的システムを繰り返す
https://scrapbox.io/files/6499b485af32bb001bf19a81.png
イテレーションを繰り返すことによって徐々に改善していく、という反復構造 ストーリーに対する読者のフィードバックを集め、それを可視化することによって新たなアイデアが生まれ、また新しいストーリーが作られる
それらが全部蓄積していった結果として…
日本語話者の思考や感情をデータセットとしたAIができる
このAIは世界中で利用可能になり、人々がそれぞれの言語で会話できるようになる
「日本文化」って言葉で古典的文化を連想する人も多いかもしれないが、まずイメージして欲しいのは
日本でドラえもんを知らない人はいないだろうし、世界でもかなり認知が広がっている
ドラえもんは「AIは友達」的な世界観を生み出している ハリウッド映画的「人類を滅ぼそうとするAI」ストーリーに対するアンチテーゼ
「人類を滅ぼそうとするAI」ストーリーに立脚して悪い未来を思い描いた人は、AIに対する法的拘束力のある規制を作ろうとする
もう一つ、プロジェクトの参加者から出てきたキーワード:
人間が作った道具が、長く使っているうちに魂を持つようになり、最終的に神になる LLMが賢くなって、人格的存在になる未来イメージ
それを「神」と呼ぶことに、一神教文化圏の人は反発する
日本の「神」の概念が一神教の神とかなり違うもの
日本はキリスト教の割合が1%しかない、一方アメリカは7割近い
AIは道具、人間に匹敵する能力を獲得しないように規制すべきだ論
神が人間を作った
神は人間より上位の存在
人間がAIを作った
AIが人間に匹敵してしまうと?
「被創造物が創造主に並びうる」は「神は人間より上位の存在」という概念への挑戦になってしまう、不遜!
人間が「人間を作る」という神の御業をしたことになる
クローン人間同様に倫理的に好ましくない!
地球規模の熟議を可能にするには、こういう文化的な考え方の違いを互いに理解していく必要がある ドラえもんや付喪神の概念を世界の人々が理解するためのアクションが必要
夢物語のように感じられるかもしれないけど、技術的な実現可能性は高い
まず「コミュニケーションの場」としてScrapboxを使用している
生成されたストーリーや、感想、その他の雑談など、なんでもここに書かれる
実現済みの実装
ScrapboxのデータをGithub Actionsで1日1回データをエクスポートする
500トークンのチャンクに分けてOpenAI Embedding APIでベクトル埋め込みし、Qdrantに格納している
10/20にOpenAIに提出する予定
単なる自然言語コーパスと違って面白い点
https://scrapbox.io/files/64a1d12aa415f7001b913af4.png
「大勢の人の主観の分布」というデータ
自然言語文と数量データのペアになってるので、ベクトル検索で前半の文章を引っ掛けて、数量データをプロンプトに積むことで、チャットボットは日本人の思考や感情の分布を知った上で話すことができる
将来的にはFunction CallingでPolis的システムに質問を投げて人間の反応を集める仕組みを構築するのも面白そう
オープンベータ中!
ある参加者の感想
採否は未定ですが、オープンベータでプロジェクト自体のプロトタイピングをしています! 現在30人が参加中
もちろん7/15に採択が決まった後で参加するのもウェルカムです!
多様な視点を集めるために、いろいろなコミュニティの人を勧誘したい このコミュニティはAI活用に肯定的で、みずから実装もできる人の集まりだと思う
みなさんが生み出したものが恐怖に怯えたラッダイトに叩き壊されないためにも、共通理解を生み出していくことが大事!